VOL.7
「体の不調と噛み合わせとの関係について」
'00/3
先人の教え
「医食同源」の言葉通り、人間の健康は食べることと切っても切れない関係にあることは、遙か昔より真実として伝えられていることです。
また「姿勢を正しくしなさい」というのも(最近ずいぶんと乱れているとはいえ)万人が納得する教えです。
そして歯科治療というのは虫歯になった歯を治したり、土台の歯周治療をしたり、歯を失ったときにはブリッジという冠をかぶせたり入れ歯を入れたり、インプラント(人工歯根)を埋め込んだり、矯正で歯並びを治したりしますが、それらは「手段」であって「目的」は「正しい噛み合わせの維持」だということを忘れてはいけません。
それがあって初めて前述したように楽しく「食べる」ことが出来ます。
しかし「食べる」こと以外にも重要な要素があります。
今回のお話のメインテーマですが、実は姿勢を正しく保つのに顎の位置、もっといえば頭の位置というのがものすごく重要で、いろいろな体の不調とも大きく関わっているということが最近のいろいろな報告で分かってきました。
ある意味では歯科治療というのは全身的な不調を招かないための、一つの有意義な予防手段といるわけです。
いわゆる顎関節症
マスコミなどでもよく取り上げられる「顎関節症」について、いろいろなイメージをお持ちの方がいらっしゃると思いますので、誤解を生まないように簡単に説明します。
「顎関節症とは,顎関節や咀嚼筋の疼痛,関節(雑)音,開口障害ないし顎運動異常を主要症状とする慢性疾患群の総括的診断名であり,その病態には咀嚼筋障害,関節包・靱帯障害,関節円板障害,変形性関節症などが含まれている.」と疾患概念が定義されています(日本顎関節学会,1996.7)。
要は顎関節内部や周辺の多彩な症状で、その原因も多因子です。噛み合わせはその発症素因の一つとなっています。外力の大きさや体の抵抗力や耐性にも左右されます。
最近は放置しておけないケースは1割弱で、おおかたは時間が経過すると軽快するとの見方になっており(もちろんその間の療養指導やセルフコントロールは大事です)、筋肉のコントロールが注目を浴びてきています。
たとえば噛みしめる癖を治す、舌をバランスよく動かすなどなど。
ただし不適切な冠やブリッジを装着されて発症している場合は、これをやり直す必要があります。
重力が体に与える影響
人間が水中より6倍も重力の影響がある地上で、しかも直立歩行を行うことで両手を自由に使えるようになりましたが、非常に微妙なバランス感覚を必要とすることになりました。
また直立歩行時などに出来るだけ省エネな筋肉の使い方をマスターしました。
逆にいえばバランスを崩したときに体の各所に大変な筋肉負担をかけることになり、それが長期化すると慢性疼痛や骨など硬組織への影響が現れると思います。
バランスの崩し方は様々です。ストレートには足のケガやまた長期間の姿勢の崩れも大きな原因ですが、頭部の位置が悪い場合に噛み合わせを決める下顎の位置が悪いことが多いのです。極端ないい方をすれば下顎骨は全身のバランサーともいます。
正常な立位像(写真1)と、
バランスが不調な立位像(写真2)および
噛み合わせ方によって姿勢が変化したケース(写真3)
噛みグセと姿勢の点検を
顎関節は唯一左右で一対の関節構造を持っています(写真4)。つまり左右が協調して動くことが大事で、左右どちらかでしか噛まない「噛みグセ」があるということは何か問題があるということです。
この点については歯科治療を受け点検してもらうことによってある程度改善することが出来ますが、原因の分からない場合もあります。
実はこういうときに、より重心をかけている方で噛んでいる場合が多いことに気づきました。重心をかけている半身はぐっと力が入りやすいようです(図1)。
つまりバランスのとれた顎の使い方はバランスのとれた体の使い方と不可欠といえます。
姿勢をよするためには、まず自分でよいと思っている姿勢はえてして間違っている場合が多いということと、背筋に力を入れてピーンと伸ばすことが大事だと勘違いされてることに気づかなければなりません。筋肉に必要以上の緊張をかけることは間違いです。
医科歯科連携の必要性
歯を治しきちんと噛めるようになったことで水泳を再開することが出来た初老の男性、突っかかっていた下の親不知を抜いたことで数年間続いた頭痛が帰宅途中でもう治ってしまった女性、右下のブリッジをほんの1mm高くしたことで何年ぶりかでぐっすり眠れた女性など日常診療ではいろいろな改善例を、またときにはかぶせた冠がちょっと高くてその日のうちに手がしびれてきたなどの反応を経験します(図2、当院において噛み合わせの治療をした後の随伴症状の変化)
まだこのあたりの因果関係や研究が明確になってはいませんが、むちうち症が多彩な症状を呈するように、噛み合わせが頭位の異常や頸椎の歪みを起こし、頭痛やめまい・肩こり・腰痛などの関連症状を引き起こしていることが想像できます。もちろん医科の専門家の診断を受けることが大前提です。
人体をトータルに診る必要性がいわれている今、もしいろいろな症状でお悩みの方がいらっしゃったらぜひ歯科における噛み合わせのチェックもお考え下さい。
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