最近のアレルギーの気になる話題

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渡辺一彦 <渡辺一彦小児科医院院長>
ゆりかご園医

勤医協札幌病院小児科長を経て
2000年3月、小児科医院開業

003-0026 札幌市白石区本通1丁目南1番13号
Tel:011-865-8688 / Fax:011-865-8660

1)アレルギー疾患の増加

 アレルギー性疾患が増え続けています。文部省の調査でもこの十年に喘息は2〜3倍になっています。日本は先進国ではまだ中間に位置しますが,いずれ高位に上がるのではないでしょうか。3〜4人に一人はアレルギーになりやすい人がいます。それをアレルギー体質とよび,かなり遺伝的に左右されます。しかし,そうした遺伝的要因があってもアレルギーを発症(例えば喘息発作を起こす)するかどうかは,その人の環境が大きく影響します。

 アレルギーを起こす抗原も少なく,化学物質等の環境汚染も少ない時代は,アレルギーに悩む人は少数でした。しかし文明の進化とともにアレルギー体質をもつ人は,ほとんどが発症してしまうことになったのです。

2)食物とアレルギー

 食物アレルギーでは,以前は牛乳,卵,大豆の三つが代表でした。それがこの10年前から米,小麦などの穀物や芋類が加わりました。さらにこの数年前から,いままでさほど問題のなかった果物,ナッツ類,野菜,魚貝類,ゼラチンのアレルギーが登場しました。

 牛乳,卵のアレルギーの増加は,戦後の食生活の急激な西洋化による,民族的大実験ともいうべく過剰摂取で説明がつきます。しかし,瑞穂の国,米を長年摂取してきた日本でどうして米アレルギーが増えたのでしょうか。これはアレルギー学的に確認されたわけではありませんが,一つの理由としてそれはまず品種改良の結果コシヒカリが広まり,米のアレルギーが準備され,平成元年からキララが誕生し,そのキララのもつ抗原が強かったからだと思います。また他の食物でも同じことですが,牛乳や卵でアレルギー系が活性化したり,その臓器が過敏になり,他の食物やダニや花粉へアレルギーが広がってしまった結果かもしれません。

 その他のものはどうしてでしょうか。まず札幌には白樺が多いので,白樺と似た抗原を持つリンゴ,プラム,さくらんぼ等のアレルギーが増えたことが考えられます。白樺花粉アレルギーは杉アレルギーと同様,大気汚染の結果増えたと考えられます。バナナ等のトロピカルフルーツを食べるとゴムのアレルギーも増えます。ゼラチンはグミのようなお菓子が増え,また予防接種の中にたくさん含まれた結果と考えられます。このように交叉反応(相乗効果)で抗原が広がった面があります。大豆では,大豆の油の方がアレルギーが強く,なっとうや豆腐は弱いのです。昔は貴重な油も大量に生産,消費されています。その油が大豆の蛋白と結びついて,抗原を高めている可能性があります。酸化した大豆油は更にアレルギーが強いようです。では消費の減っている魚貝類アレルギーは,どうしてでしょうか。この背景には「環境ホルモン」が潜んでいると考えています。寄生虫の激減が興味本位に語られますが,私はこの見解には否定的です。

3)環境汚染,環境ホルモンとアレルギー

 最近白樺花粉症が目立ちます。どうやら花粉の飛散量が急増したことが直接的な原因のようです。確かに花粉症は樹木や雑草の花粉による代表的なアレルギー疾患です。しかし,本州方面の杉花粉症の研究で明らかにされたことは,杉の花粉が大量に飛び交う農村地帯より,少ないが大気汚染の進んでいる都会の方に,患者の発生率が高いことです。田舎でもトラックやバスの通る幹線道路周辺に多いのです。そこでいまではジーゼルエンジンから排出される微粒子が杉花粉症を発症させる鍵と考えられています。同じことが他の花粉症でもいえるのではないでしょうか。

 札幌はどうでしょうか。4年前の調査でも大気汚染の基準値こそ超えてはいませんが,上限値に接近しています。車は増え続け,幹線道路は渋滞しています。しかも残念なことにジーゼルエンジンの車の比率は本州に比較し高いのです。私はこのままでは花粉症は毎年増え続けると予想しています。

 また最近話題になっていますが,ダイオキシンに代表される外因性内分泌攪乱物質=「環境ホルモン」は,野生生物や人類にとって大変な問題です。その作用の一つが動物の免疫を乱すことです。免疫力を失ったアザラシのウィルス感染(風邪)による大量死が有名です。また興味深い動物実験がありますが,それは胎児のアレルギーの発症にも関係深い抑制T細胞を破壊することが知られています。また乳児でアトピー性皮膚炎が,ミルクより母乳栄養児に多いことが知られています。長山先生は,母乳中のダイオキシン濃度が高いほど乳児の抑制T細胞が減少しており,それを一つの根拠にしています。

 農薬や食品添加物も心配です。同じ品種の米でも農薬を使用した田からの米ではアレルギーがでたが,無農薬有機農法の田の米では出なかった子どももいました。それはやはり農薬がアレルギーの引き金だったと考えられます。また地鶏の卵ではなんでもなかったのに,スーパーの安い卵では湿疹がでる子どももいます。

 またホルマリン等に代表される化学物質過敏症といわれる病気があります。シックハウス症候群という病気をマスコミでも使うようになってきました。過敏な個人によっては常識では考えられないような微量な化学物質に反応します。それによりアトピー性皮膚炎や喘息が悪化する例も増えてきています。