アトピー性皮膚炎の予防について

読売新聞北海道版夕刊に3回に渡って掲載された
記事の原文です。ゆりかご園医でもある
渡辺先生に感謝します。
2000/5

渡辺一彦 <渡辺一彦小児科医院院長>
ゆりかご園医

勤医協札幌病院小児科長を経て
2000年3月、小児科医院開業

003-0026 札幌市白石区本通1丁目南1番13号
Tel:011-865-8688 / Fax:011-865-8660


 アトピー性皮膚炎(以下アトピー)は長く経過するやっかいな病気です。最近は赤ちゃんばかりではなく、成人の発症例も目立って増えてきました。時には日常生活も送れないような悲惨な例も経験します。この病気をどう予防したらいいのでしょうか

 この病気のベースには素因(なりやすい体質)があります。素因の有無を予想するのは現代医学でも不十分ですが、まず家系的にアレルギー疾患があれば、素因を持つことが疑われます。この素因は遺伝的に変えられませんが、素因を持つ人が全て発症するわけではありません。アトピーはその発症、増悪には様々な要因が影響する、「多因子疾患」と言われています。しかもそれは個人差がかなりあります。しかし個々人の因子を適格につかみ、一つ一つ取り除くことによって予防が可能になります。

 アトピーの原因の一つに食物があります。近年伝統的な和食にとって変わって、食事の西洋化と食生活の乱れが進行してきました。つまり牛乳・卵の偏重、肉や油のとりすぎ、野菜嫌いがその典型です。

 乳児の例をとりあげますが、母親の側では、妊娠中も十分な栄養をとるよう勧められ、その結果必要以上の高蛋白高脂肪になります。そして胎内での感作(胎内でアレルギーの影響を受けること)がアトピーのきっかけになります。乳児の栄養は母乳が理想的ですが、産院で勧められる等、依然異蛋白質であるミルクに押され気味です。また育児書では既成の栄養豊かなベビーフードの宣伝が氾濫し、離乳食も早すぎになりがちです。

 もちろん哺乳類の人にとってミルクより母乳の方が理想的ですが、母親の摂取した蛋白が母乳を介し乳児に移行し、アトピーを悪化させることもあります。

 要は一面的な栄養学が導いた高蛋白高脂肪食を見直し、偏らない食品を心がけることがアトピーの予防になります。

 では妊婦の食事制限によってアトピーが予防できるでしょうか。様々な研究がありますが、否定的な論文が主です。しかし、胎内感作の点からみて一部には有効例もありそうです。しかし、胎児への栄養やストレスのことを考えると安易に行うのは危険でしょう。


 食物の面の追加ですが、油脂と米を取り上げます。成人病の予防のためにと植物油が頻用されています。大豆蛋白の混入する油のアレルギーのことはさておき、植物油のリノール酸は過剰になるとアレルギーを促進します。現代子は揚げ物、スナック菓子等で必要以上に取りすぎています。そこでリノール酸と競合しアレルギーを押さえる、αリノール酸系の柴蘇や菜種油や魚、野菜を主食とした料理が勧められます。

 最近米アレルギーの関与するアトピーが増加しています。品種はほとんどコシヒカリ系統の米ですが、ゆきひかりではあまり起こりません。北海道でしかとれないゆきひかりをアトピーの予防に推賞します。 

 さて、アトピーの素因には、乾燥しやすい、刺激に弱い皮膚の面もあり、かゆみの起こりやすい肌です。かゆみがあるとひっかいて皮膚炎が悪化し、悪化するとかゆみが増強しひっかくという悪循環になります。ですから日常のかゆみを起こす全てに注意を向けなければなりません。

 特に幼児期は外界から肌を守っている皮脂が減少しています。そして日常生活では皮膚の汗、汚れ、細菌、抗原の影響を受けやすくなっています。そこで皮膚清潔を保つために入浴やシャワーは欠かせません。しかし、石鹸やシャンプーで必要以上に皮脂を落としすぎたり、それらの刺激が強すぎたりでは、かえって炎症が起こります。さらに熱いお湯ではかゆみが増すだけです。また入浴後は皮脂を補い乾燥から守るために保湿剤が必要です。

 皮膚が直接触れる衣類も注意が必要です。チクチクするもの、堅くごわごわなものは避けましょう。また化繊や文字や絵のついたものではかゆみが起こることがあります。特に冬には皮脂も減少し、過度の暖房で皮膚が乾燥しがちですが、湿度を50%前後に保ちたいものです。

 このかゆみはストレスにも左右されます。受験期に悪化し、合格すると全く治癒した例が象徴的でした。しかし、家庭の危機、塾や習い事の強要、いじめ等いまの社会はストレスだらけです。だんだん子ども生活が夜型になって」、また小児期の運動不足で夜寝付けにくくなっていますが、これもかゆみを増しています。

 肌を大切にする環境、ストレスを解決する生活が予防の要です。


 「住宅がアトピーの原因だった。」最近新築病(シックハウス)や化学物質過敏症という言葉がマスコミに登場しています。これは化学物質による多彩な奇妙な健康障害です。しかし、医師がまだ十分この病気を認識しておらず、見過ごしている可能性が高く、多くは原因不明としてやりすごされています。私自身アトピーの患者の増悪、発症因子の一つとして数年前から注目してきました。最近ではアトピーの新患の約3割に影響していると実感しています。 

 原因として挙げられているものには、合板、壁紙、接着剤、塗料など使用される、ホルムアルデヒド、キシレン、トルエン。また畳等の有機燐系の農薬、芳香剤や防虫剤として使用される発ガン性もあるパラジクロロペンゼンが代表的です。その他にも、化粧品、難燃剤、スプレー剤、ドライクリーニング、タバコ等数十から数百にも及びます。

 この増加の背景には高気密な北方圏住宅があり、北海道では余計リスクが高まります。また化学製品に取り囲まれた生活スタイル、残留農薬や食品添加物が含まれる食品、汚染された水道水、大気汚染等も人体に影響する化学物質の総体を底上げしています。

 原因物質は身近にあり、なにも住宅内だけではなく、家具屋やデパート、学校等の公共建築物、乗り物の中でも起こります。最近はダニのアレルギーをさけるためにフローリングが流行していますが、余計患者を増やしています。

 これがどのような機序でアトピーに影響を与えるのかはまだ不明ですが、直接に皮膚を刺激し炎症を起こします。また一部ではアレルギー機序も知られてきました。

 化学物質の関与しているアトピーには特徴があります。それは露出部にできやすいことです。顔面や首、前胸部、四肢が犯されやすく、重症化すると全身にも波及します。これはよく成人型といわれるアトピーの特徴であり、しかも日本だけで話題になっている病像です。もちろんこの型全ての原因ではありませんが、有力な因子と考えています。

 診断のきっかけとしては、田舎の古い家ではかえって良くなり、新しい自宅に戻ると悪化する、特定の場所、物と接すると悪化することで気付かれます。

 特にアレルギー体質では家の設計での打ち合わせ、日常生活での安易な化学物質の使用の見直し、公共建築物を含めた環境汚染対策で予防が可能です。