ゆりかご 歯科相談

VOL.4
「指しゃぶりについて」

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 はい、遠ちゃんです。とうとうこの難しい課題を送信することが出来ました。

 母親教室などで必ず出る質問なのですが、自分の子どもの指しゃぶりをやめさせられないでどうして偉そうなことを言えようか、というのがあったからです。

 ここまでの文章の中にすでに問題があり、実は「やめさせる」と思うこと自体があまりよくない。いろいろ取り組んで「やめるに至った」「やめることに援助できた」「やめるために関わった」というような表現になることが本来望ましいのですが…。

 指しゃぶりは深く心理的な問題が絡むときが多く、対応は非常に難しいと思います。

(1)なぜ人間は指しゃぶりをするのか。

 まず、おなかの中の胎児はすでに指しゃぶりをしています。胎生24週(6ヶ月)より人間の胎児には吸綴反射(吸う反射)が見られ、胎生28週(7ヶ月)頃から吸綴と嚥下の練習を繰り返し出生に備えます(羊水を飲んだりしています)。

 新生児期から乳児期前半のほ乳期には、指しゃぶりや玩具なめなどの多様な感覚を経験しながら、手と口の協調運動の発達を促し、摂食機能の発達準備を整えていきます。

 しかしその後、幼児期前半(3歳前後)を過ぎても継続し習慣化してしまうときがあります。このときが一番重要なタイミングだと思います。

 習慣化する原因が必ずあるので、すぐそれに気づけば早ければ早いほど修正しやすい。習慣として形成されてしまうと、それが確固としたものになるにつれ、本当に是正しにくくなります。

(2)指しゃぶりを行うことによって起こるプラス面・マイナス面は何か。

 硬組織に対しては前歯部の開咬(上下の前歯の間が開くこと)、上顎前突(前歯が出っ歯てくること)があり、軟組織に対しては唇の弛緩、舌の突出、指だこ、機能的には以上から十分咀嚼できない、口呼吸(口で呼吸すること)、発音への影響があります。

 プラス面というわけではないのですが、指しゃぶりをすることがその子にどんな精神的影響を与えているかというと、「口は飛び出した脳である。」と言うくらい触覚の焦点です。指をしゃぶると刺激がどっと脳に集中することで自分が嫌だとか悲しいとか思っていることが全て麻痺・中和されてしまいます。つまり一番安直になんの努力もしないで自分を慰める方法が指しゃぶりです。指は決して裏切りません。

(3)どうしたら自然にやめることが出来るのか。(専門家のアドバイスを紹介します)

 岩倉先生の処方は次の通りです。

  1. 指をしゃぶることについて決して叱らない。
  2. 指しゃぶりをしている手を抜き取らない。
  3. 子どもがやった良い行動は必ず誉める。
  4. 一日五回以上子どもを誉めたかどうか母親が自分自身を点検する。

 以上ですが、私は出来ませんでした。

(4)紗葵が指しゃぶりをやめることが出来たわけ。

 紗葵は昔から気が強いというか頑固というか、癇癪を起こしたら1時間くらいは平気で泣いて暴れる子でした(今でも一番手がかかるかも…)。

 夜寝るときも必ず授乳しながらでないと寝ないタイプでしたので、1歳の時に保母さんの指導を受けて断乳した時はそれはそれは大変で、1週間大暴れの毎日でした。今でも思い出すと悲しくなります(断乳についてはいろいろな見解があるので、専門家に判断は委ねます)。

 一人目だったので時間的には一番両親と接していたのだと思いますが、両親共々わけもわからず育児をしながらなかなか環境の変化についていけず、お父さんの方は職場が最も大変だった時期であったこともあって、余裕を持って子どもには接することが出来ていなかったと今では思います。

 授乳中から母親の耳を触る癖がありましたが、断乳後は指しゃぶりと自分の耳をもう一方の手で触る習慣が始まりました。怒られたとき、精神的に不安定なとき、安らぎたいとき、眠いときに頻繁に行います。しかし指だこができるほどではなく、また乳歯の前歯も上下間は数mm程度の離開だったので、また幼児期は移行期間として容認できるなと思っていたのでしばらく様子を見ながら、3歳になったらやめようね、4歳になったらやめようね、5歳になったら…、と過ぎていったのでした。

 母親もだっこして上げたり、せっかくかわいいのにみったくなくなっちゃうよ、など色々なソフトな対応を試しました。ちゅっちゅぽいっ!とかちゅっちゅの歌も歌ったりもしました。手袋はくかい?とか。でもいつもいつもソフトな対応ばかりではなく、何回言っても治らないと焦って指をはずしたり「紗葵!ちゅっちゅやめなさい!赤ん坊と同じだ、恥ずかしいよ!」とかなり怒りつけもしています。

 前述した岩倉先生の言葉も頭には当然あるのですが、でも下に弟が出来てくると彼女だけに対応することはどだい無理でやはり小さな子優先になるし、じゃお父さんが頑張らねばと言っても、仕事の関係で子供と一緒に寝るのは週に2回くらい…。

 今でも強烈に記憶に残っているのは、まだ4歳にならない頃紗葵が「ちゅっちゅなおるお薬ってないのかな…」って寝るときにぽつりと言った言葉です。
 本人は親の言葉をちゃんとわかって聞いているけどやめられないのです。これは本当に不憫に思いました。

 小学校に上がるときはここが絶好のチャンスと思い、「小学校になったらやめようね!小学生になったらちゅっちゅしてたらおかしいよね!」とかなり本人の意識を変化させようとしました。しかし治りません。はっきり言ってその姿を見るだけでうんざりもしてきたのが正直な気持ちです。もう上と下の乳歯の間は5ミリ近く離れていて、上唇の形もめくれ上がってきています。このくらいだと歯槽骨の形態も変化しています。

 今思えば小学生になったことでやめたいと思ったのかもしれませんが、環境の変化が与えるストレスの方が強かったのだと思います。そして上の乳歯の前歯が2本抜けました。ここがまたチャンスと「今度生えてくる歯はちゃんと生えてくるようにちゅっちゅやめようね。やめないと大人の歯も生えて来れないよ。」と諭しましたがそれでもやめません。ちょうど抜けたところに指が入っているので歯槽骨の変形はこれ以上は進まないと思いましたが(指しゃぶりで歯だけでなく、歯ぐきの骨自体も前に出てくる)、永久歯が生えてくるまで本当に何とかしないと、と私は本気で悩んでいました(妻にはそう見えなかったかもしれないが…)。

 歯科の雑誌を色々調べて、小学校になっても指しゃぶりをやめられない子どもの治療方法を我が子にも実践するしかないか、いよいよ指しゃぶり矯正装置を口の中にセットするしかないかと考え、「紗葵、ちゅっちゅやめないと針金みたいなものを口の中につけるよ。」と言い始めていたのでした。

 2月に入るか入らないかという頃、紗葵は学童保育が終わっていつものようにおじいちゃん・おばあちゃんの家に行ってテレビを見ていました。おばあちゃんは私と同じく紗葵の指しゃぶりを見てはいつも注意をしたり諭したりしていたのですが、それまで全然効き目はありませんでした。
 ちょうどその時指しゃぶりをしている赤ちゃんがテレビに映り、おばあちゃんはこう言いました。「紗葵、あんたももう2年生だよね。また知らない友達がクラスに入って来るんだよね。1年生ならまだしも2年生になってもちゅっちゅしていたら、保育園に逆戻りだね…。」というようなことを言ったそうです。
 学童保育に通ったせいかもしれませんが、子どもの成長したいという欲求は思った以上に強いですね。なんとその言葉を聞いてから、その後ぴたっと指しゃぶりが止まって、私は本当にびっくりしました。
 その数日後に永久歯が顔を出してきたので、これ幸いと「この歯がちゃんと生えてくればいいね!」と指しゃぶりのことは一言も触れずに今に至っています。

 結論から言うと、指しゃぶりをしてしまう条件はそれなりにあり、ただ禁止するだけでは絶対解決しないのですが、指しゃぶりの弊害がわかる年齢(4歳以上くらいかな)になるとそれをやめるきっかけが絶対にあり、それをうまく利用することです。しかしそれは本人が自覚する以外には絶対うまくいかないので、その自覚をどう呼び覚ますか、しかありません。保護者は色々な援助をするけれども、うまくいかなくても焦ってもしょうがないです。本人が自覚した時にどううまく誘導するか、ここだと思います。いっぱい誉めて上げるといいと思います。今回は紗葵が成長したいという気持ちが指しゃぶりを乗り越えさせました。

 小学校に通い始めた初日は車で送りました(親バカ…)。2日目は車で送ってくれるなといいました(内心びっくりかつ寂しかった…)。
 一人で歩いていけるか心配だったのは親だけで、子どもはしっかり自立したいという思いであふれていました。
 ゆりかごの保母さんはちょっと寂しくなるかもしれませんが、小学校に行ってからはゆりかごに行くことを嫌がります(本当は好きなんだろうけど)。私は保育園を卒業したんだよ、と言う意思表示でもあります。

 今回は紗葵のこういう意志が指しゃぶりをやめさせましたが、方法としてはいろいろあって、きっとケースバイケースです。指しゃぶりをしているとブスになるよ、の一言でぴたっとやめた例もありますし。

 今回は本当に長文になってしまったのですが、子どもの心理を考えると本当に考えさせられる深い課題です。紗葵は今でも時々唇を触る癖は残っています。
 いずれ大きくなったときに「指しゃぶり」に該当するようなサイン、それがもっと複雑な形で現れると思いますが、親としてはそれを見落とさないようにしてゆきたいとつくづく思う今日この頃です。


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